大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)962号 判決 1978年3月03日
原告
葦原運輸機工株式会社
右代表者代表取締役
左崎充
右訴訟代理人弁護士
竹林節治
同
中山晴久
被告
全国自動車運輸労働組合大阪合同支部芦原運送分会
右代表者分会長
松浦正治
右訴訟代理人弁護士
桐山剛
同
高藤敏秋
同
鈴木康隆
主文
被告から原告に対する大阪地方裁判所昭和四九年(モ)第七一三九号間接強制申立事件の間接強制決定に基づく強制執行は許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
本件につき当裁判所が昭和五〇年三月一七日にした強制執行停止決定は認可する。
前項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
主文一、二項と同旨の判決
(被告)
原告の請求棄却と訴訟費用は原告の負担とする旨の判決
第二当事者の主張
(請求原因)
一 債務名義の存在
原・被告間には主文一項掲記の間接強制決定があり、同決定の主文は次のとおりである。
1 被申請人(原告)は本決定の告知を受けた日から七日以内に申請人(被告)および申請人(被告)が委任した全国自動車運輸労働組合大阪合同支部の交渉委員と一九七四年度夏季一時金につき誠実に団体交渉をせよ。
2 もし被申請人(原告)が右期間内に前項の履行をしないときは、申請人(被告)に対し、右期間満了の日から右履行のあるまで遅延一日につき金五万円の割合による損害金を支払え。
二 被告は、右間接強制決定主文一項記載の期間中および同期間経過後においても、原告は被告と誠実な団体交渉を行なっておらず、同決定主文二項所定の遅延損害金が発生したと主張し、昭和四九年一一月二四日から昭和五〇年一月二六日まで一日につき金五万円の割合による遅延損害金合計三二〇万円を請求債権として、大阪地方裁判所に原告所有の不動産につき強制競売申立をし、同裁判所は昭和五〇年二月一日強制競売開始決定をした。
三 しかし、原告は前記主文一項記載の期間中および同期間経過後においても被告と団体交渉をしている。
ところで、団体交渉権は権利としての具体性、特定性を欠いている。即ち、誠実に団体交渉をするということはいかなる程度、内容の団体交渉を意味するのかその内容は極めて不明確であり、したがって、右義務を履行したか否かということも同様不明確であって、この義務を命じられた原告は法律上不安定な地位におかれた。それはともかく、原告が右決定以降誠実に団体交渉をしたか否かは単に昭和四九年一一月一四日以降の団体交渉の経過のみから判断すべきものではなく、昭和四九年度夏季一時金についての被告の要求、これに対する原告の回答、その回答の根拠と背景、その後の労使交渉の全般的経過等の事情を総合して判断し、その上で誠実に団体交渉に応ずべき債務の内容を明確化、特定化しつつ、その義務の履行があったか否かを判断しなければならない。
四 以下項目を分けて詳述する。
1 被告の要求とその内容
被告は昭和四九年六月六日同年度夏季一時金として一人平均四五万円を支給すること、その配分は九〇パーセントを一律支給、五パーセントを年功とし、五パーセントを家族手当とすることを要求した。
右要求は原告が従来支給してきた各季の一時金額を大巾に上回るものであり、原告の業績が極度に振わなかった中でこれを全従業員に認めることはたちまち原告の破綻をきたすほどの高額のものであった。その配分については考課を認めていない。
2 原告の回答
(一) 基本部分
日給をもとにランクを定め算出するもので、日給一五〇〇円まで五万円、同一三〇〇円まで四万円、同一一〇〇円まで三万円、同一〇〇〇円まで二万五〇〇〇円、同一〇〇〇円未満を二万円として算出し、なお昭和四八年冬季よりランクが下回る場合は五〇〇〇円を加算する。
(二) 出勤率部分
出勤率八二パーセントを基準に一パーセントごとに増減するもので、算出方法は基本の四〇パーセントをもとに一パーセントごとに増減し、それにより得られた金額を二倍する。
(三) 勤年部分
一年一八〇〇円とし、勤続年数に応じて支給する。
(四) 考課部分
考課項目としては協調、自覚、創造、積極、努力、安全、定着の各要素があり、各項目を一〇点満点として評価し、複数の評価者で考課してその総点数を集計し算出する。その結果をさらに一〇点から一点までの五ランクに分けて、一点につき基本の一〇分の一を支給する。なお一〇点から一点までの五ランクの分別は、総合点数五二二点以上を一〇点、四九一点以上を八点、四六〇点以上を六点、三七三点以上を四点、九八点を一点として算出する。
(五) 協力度部分
出勤率をもとに算出するが、八二・三パーセント以上に一万五〇〇〇円、八〇パーセント以上に一万二〇〇〇円、七五パーセント以上に一万円、七〇パーセント以上に七〇〇〇円、七〇パーセント未満に四〇〇〇円を支給する。
(六) 期待部分
今後の期待度をみるもので、考課と協力度の各金額を加算した額の二分の一を支給する。
(七) 特別手当
役員会が決定するもので、三万円、二万円、一万円とあり、特に企業に貢献した者に支給する。
以上の算出方法による従業員の夏季一時金の平均支給額は一五万六四四〇円であり、最高額二四万七三五〇円、最低額は三万二九〇〇円となる。したがって、被告の要求額とは相当かけ離れているが、原告の回答額は当期の業務実績および過去の支給実績から見ても相当である。配分については広く従業員の勤務状態を一時金の算出に反映させようとするものであるが、このような配分方法は原告において過去一〇年近く行なわれてきた労使慣行であり、また大多数の従業員の賛同を得てきたところであって、原告の業務内容からみて十分合理性を有する。
3 原告の回答の根拠とその背景
原告の回答額が当期の業績から見てやむを得ないところであり、その配分方法をとることに合理性があることも前記のとおりである。それゆえ、この配分方法を変更するには労使双方に納得しうる事情があってはじめてなしうることであり、そのような事情の変更がない以上、原告がその方法を踏襲しようとしたことにも相当の理由があると言わなければならない。また、被告組合員もこの慣行の存在を認識し、過去異議なく一時金を受領してきたものであり、昭和四九年度夏季一時金についてのみ異議をとどめて受領しなかったのである。
4 団体交渉の全般的経過
(一) 昭和四九年六月二〇日
原告代表者が出席して団体交渉を開こうとしたが、事前調整ができず開かれなかった。
七月三一日 原告代表者出席のうえ一七時四〇分から一八時まで団体交渉を行なう。
八月二日 被告組合員の欠勤が続いたため予定された団体交渉は開かれなかった。
同月一三日 原告代表者出席のうえ一七時五五分から一八時三〇分まで団体交渉を行なう。
九月四日 明日一七時から団体交渉を行なうことに原・被告は同意し、同月五日原告代表者出席し一七時五分から一八時一二分まで事前調整をしたが、合意に達せず、実質的には団体交渉が行なわれなかった。
同月六日 原告から被告に対し本日団体交渉の用意があることを伝え、原告は交渉の準備をして待機したが被告は出席しなかった。
同月一〇日 原告代表者出席のうえ一九時五分から二〇時五分まで団体交渉を行なう。
一〇月一日 原告から被告に対し本日団体交渉をしたい旨伝えたが、被告は用事があってできないとの回答があった。
昭和四九年一一月七日以降については後記7において述べるとおりであるが、原告は一二月三日と六日に当日団交を行ないたいと被告に伝えたが、被告の都合により開かれなかった。
(二) 先ず、団体交渉には必ず原告の代表者が出席しており、このことは原告に誠意をもって団体交渉をする意思があることを示すものであり、また、誠意をもって団体交渉をすすめたものと言える。
(三) 昭和四九年度夏季一時金に関する団体交渉は七回にわたり熱心に行なわれたものであるから、被告の要求金額に達しなかったが、直ちに誠意ある団体交渉ではなかったとは言えない(大阪地労委昭和四〇年一〇月二〇日命令)。
(四) 誠実に団体交渉に応ずべき債務の給付内容については相手の態度とも関連して流動的に把握されなければならないところ、本件における被告の態度は必ずしも誠実なものとは言えない。被告は団体交渉の予定日を自己の都合により一方的に拒否し、あるいは原告が提案した日時に行なうことができるのに拒み、さらに、被告組合員は被告から一方的に日時を指定してこれに応じられない原告側委員に対し暴行、脅迫をもって威圧してスムーズに団体交渉が行なわれなかったことがうかがわれるが、昭和四九年度夏季一時金につき通常の場合以上に長期間妥結に至っていない理由の一つに被告側の不誠実な態度があげられる。
5 団体交渉における原告側の具体的説明
誠意をもって団体交渉をするということは労働者側の要求に対し回答を提示し、資料を提供することを含む。大阪地労委昭和四二年七月一一日命令によれば、労働組合が団体交渉を求めてきた場合には、最終的に何らかの合意に達しなかったとしても、その団体交渉の全過程において自己の主張を十分相手方に納得させるべく誠意をもって交渉にあたらなければならず、またそれをもって足りるのである。原告は回答金額、その金額を示すに至った経営状態についても被告に十分説明をし、原告の経営状態が苦しいことは被告組合員を含めて全従業員が身をもって認識していた。大阪地労委昭和三五年三月九日命令によれば、使用者の回答が組合側にとって不満足なものであったとしても、経営事情からそのようにせざるを得ないものであった場合にはこれをもって直ちに団体交渉の拒否とは言えず、受注見込みについて会社から資料に基づく説明がなくても受注のないことを組合も承知している場合には会社の態度は必ずしも誠意のない団体交渉とすることはできない(島根地労委昭和三一年三月二二日命令、中労委昭和三一年九月五日命令)。それゆえ、組合側の要求に対する全面拒否の回答も根拠を示してそうしたのであれば誠意を欠くものとは認めがたい。この場合必ずしも細かな数字を示さなくてもよく、得意先を失い会社の経営がおもわしくなく、その資金繰りに困窮していることが客観的に明白であれば、これを指摘するだけで足りるとする前記大阪地労委昭和三五年三月九日命令に徴すれば、本件において原告が必ずしも細かな数字を示さなかったとしても被告は団体交渉を通じて原告の業績がおもわしくなく、右程度の一時金回答しかできない状況にあることを了知していたのであるから、誠意ある団体交渉をつくさなかったとは言えない。
6 原告の回答維持の背景
前記のとおり、原告には夏季一時金について上積みできる事情になかったけれども、被告組合員に一時金を受領してもらう契機を作るため一人当り三〇〇円の上積み回答をした。このことは金額の多少にかかわらず原告の解決への意欲を示している。
被告組合員は他の従業員に比べて日給も相対的に低く、勤続年数も比較的に浅いうえ、出勤率は極度に悪いため、会社に対する貢献度も極度に悪い。そのため、一時金の各支給項目の算定について自ずと不利な取扱いを受けざるを得ない結果となり、このことは原告内において広く認識されている。このような状況で出勤率の低い被告組合員にのみ特別な方式を用いて有利に扱うことは会社経営上不能なことである。
被告は、昭和四九年度夏季一時金についてのみ団体交渉の拒否として争っているが、それ以前においても以降においても、右一時金についての団体交渉より内容のとぼしいそれを経て原告の回答する同様の一時金方式を事実上了承し、昭和四九年度夏季一時金と同程度の金額を受領している。被告は昭和四九年度夏季一時金以外についても妥協しておらず、内払として受領していると述べているが事実に反する。
被告は要求金額を獲得するため争議行為等の法律上認められた手段に頼らざるを得ないのに、その権利を放棄し、訴訟上の技術のみによって自己に有利に事を運ぼうとしていると考えざるを得ない。原告は結局被告の要求を全部飲まなければ事態が解決しないという不安定な地位に立たされ、不当である。
7 昭和四九年一一月一四日付間接強制決定以降の経過
(一) 被告から昭和四九年一一月七日付書面により同月一八日までに団体交渉を開催するように申入れがあったので、原告はかねて同月一六日一七時三〇分から開催したいと回答していた。しかるに、被告は当日予定時刻を過ぎてから一方的に同月一八日にしてもらいたいと述べ、原告はやむなく同日一八時から行なうことを了承した。原告は前記決定により七日以内に誠実に団体交渉をすることを義務づけられており、このことを考えると被告の態度は不誠実なものである。
(二) 一一月一八日
前記のとおり同日一八時から団体交渉を行なうこと、さらに事前に被告側の出席者は七名とすることに原・被告間で合意していたが、同日一七時になって被告は一九時から行なうと一方的に申入れ、しかも、被告側は一三名を出席させようとしたので、人数調整をし、ようやく団体交渉に入れた。このような被告の態度が不誠実なことは言うまでもない。団体交渉に入って、原告は従来の回答を変更することは事実上困難であり、配分方法等については従来説明してきた通りである旨述べ、各支給項目について説明し、被告の理解を求めた。これに対し被告が従来の要求を変更していないことは注目すべきである。このように原・被告の各主張は金額、配分方法において全くかけ離れていることがはっきりしたわけである。
被告は、原告の態度が理由や根拠を示して説明するというものではなく、頭から原告の結論を押しつけることに終始していると主張するけれども、原告の回答は被告組合員の知悉しているところであり、これまでの団体交渉において被告が妥結しようと思えばいかなる内容のものとして妥結するか判る程度に具体的に理由や根拠を説明している。あとは被告の意思決定を待つのみであり、もはや説明の有無の段階ではない。夏季一時金について妥結しなかったのは被告が意思決定をしなかったからであり、団体交渉はほとんど行き詰まりの状態になったものと考えられる。被告は金額や配分方法について原告と根本的に考えを異にしていること、前記決定を得たことを奇貨としてあえて説明が足りないとして妥結しなかったまでのことであり、もはや団体交渉権の濫用と称すべきであって、原告は法律的にみて前記決定を履行したものと考えられる。
(三) 一一月一九日から同月二九日まで被告からさらに団体交渉の申入れがあったが、団体交渉を開こうとしても被告組合員の欠勤が続き日時の調整がつかず、原告は被告の一方的に指定した一二月二日一三時をやむなく了承した。原告は前記のとおり交渉は事実上行き詰まっていると考えたけれども、被告の申入れに対しさらに団体交渉を重ねることが誠実な態度であると考えたのである。
(四) 一二月二日
同日被告側三〇名が原告事務所内に流れ込み、原告役員に対して暴力をふるい、正常な団体交渉を開くような状態ではなく、その事態を整理するために長時間かかり、その間被告組合員による暴行、脅迫、業務妨害が続いた。原告は団体交渉を開くにあたり暴力常習者の排除を求めたが、被告はこれを了承せず、団体交渉が開催されずに終った。もし被告が円滑に交渉を開く気持があるならば、当初から相当の人数をもって交渉にのぞむべきであり、また、原告が特に目立つ暴力常習者の排除を求めたことについて被告もかわりの組合員を入れるなどして交渉開催に努力すべきである。
(五) 一二月一五日
同日の団体交渉は夏季一時金以外にも年末一時金、緊急命令の件、一二月給与の件が議題となり、夏季一時金につき多くの時間をとるわけには行かなかった。しかし、原告は一人三〇〇円の上積みを回答した。被告は一応の評価を示したが、従来の要求に固執した。
この日の交渉において注目すべきことは、被告はもはや回答内容の各項目について説明を求めず、むしろ原告の回答金額が産業別に見て大阪の水準より低いので、原告に再考を求めたことである。原告はその点を考えても従来の支給実績、労使慣行、会社の実情、被告組合員の勤務状態を総合勘案すれば、これ以上出せない旨明言し、ただ被告の上部団体も出席しているし早期解決のためにあえて一人当り三〇〇円の上積みを回答し、被告に最終的な態度決定を求めたのであるが、被告は金額が低いことを理由に拒否し、もはや原・被告間に歩み寄りがないことがはっきりし、事実上行き詰まりになった。原告にはこれ以上上積みをするべき法律上の義務がなく、したがって、被告にはこれ以上団体交渉を開くことを求める法律上の権利は存在しないこととなり、結局一二月一五日をもって前記決定の履行がなされたものであり、損害金は発生しない。
(六) 一二月二〇日
同日の団体交渉も夏季一時金のほか、年末一時金、被解雇者の職場復帰と別職場での収入明細の提出などが議題となり、多くの時間を夏季一時金に費やすことはできなかった。前記のとおり、夏季一時金については行き詰まり状態になっていたが、原告はさらに被告に再考を求め、妥結をねがった。被告は原告が一方的に受領を押し付けようとするだけであり、交渉になっていないと主張するが、原告は既に最終的に回答を示しているのであるから、自己の立場を繰り返すのは当然である。
(七) 一二月二四日から昭和五〇年二月一四日まで
原告は同日一三時被告組合員土江に今日の一八時から団体交渉をする旨伝え、同人もこれを了承していたところ、被告側は一人も出席せず、結局交渉は開かれなかった。被告の態度は不誠実極まりない。その後二月一四日に被告から団体交渉の申入れがあり、同月二〇日一八時から行なうこととなった。
(八) 二月二〇日
同日の団体交渉において、原告は被告に対し夏季一時金について早く解決してほしいと要求したが、被告はこれに積極的に触れず、原告の要請を頭から無視している。これは夏季一時金についての交渉が行き詰まりになっていることを如実に物語っている。
(九) 三月三日
同日の団体交渉においても、原告は夏季一時金について基本的な態度を表明し、被告に妥結を求めた。
(一〇) 三月三日以降
同日以降被告は夏季一時金につき団体交渉で解決しようとする姿勢を示さず、同月一四日開かれる予定の団体交渉において積極的に夏季一時金を議題としようという態度もなく、それ以後も被告からそのような意思は表明されていない。形式的な申入れ文書があっても、被告はこれを交渉事項として解決するという態度ではない。ただ、被告は前記決定がなされたことを奇貨として、これを自己に有利に利用しようとしたものである。
8 おわりに
使用者としても労働組合が納得するまでいつまでも交渉に応じなければならないものではなく、相当の時間話合ってもなお双方の意見が対立したまま一致せず、妥協の余地がないことが明らかとなったときは使用者の方で一方的に交渉を打ち切っても団結権の侵害とはいえず、不当労働行為とはならない(仙台地裁昭和三七年九月一二日判決)。本件は遅くとも昭和四九年一二月二〇日をもってこの段階になったものと考えられる。
五 よって、原告は前記間接強制決定の執行力の排除を求める。
(請求原因に対する答弁)
請求原因一、二は認め、同三は否認する。被告の申立により昭和四九年八月一日原告に対し団体交渉応諾の仮処分決定がなされ、同年一一月一四日には前記間接強制決定がなされ、いずれの場合においても原告代表者の審尋を経て原告は誠実に団体交渉をしていないと断定されたのであり、原告が同決定に対して即時抗告をしていないことを考えると、原告は同決定が出された時点までは団体交渉拒否の事実を争えないと考えていたことを示している。本件争点は原告が同年一一月一四日以降誠実に団体交渉に応じたか否かということであり、したがって、同年六月六日以降前記決定までの経過を判断する必要はない。
同四の1の前段は認め、後段のうち、被告がその配分については考課を認めていないことを認め、その余は否認する。
同2のうち、原告の回答が(一)ないし(七)のとおりであることを認める。しかし、その内容のすべてが団体交渉の席上で説明されたものではない。原告の業務実績の中味、なぜその業務実績から一人平均一五万六四四〇円が相当であるのか不明である。過去の支給実績、一人平均いくらであったのか、それらと比べて昭和四九年度の場合どうであったのかの説明もない。原告は配分方法が労使慣行となっていたと主張するが、それは原告が一方的に支給してきたことを意味しているだけであり、もとよりそのような慣行はありえない。
同3は否認する。原告においては昭和四五年一〇月に労働組合が結成されてから現在に至るまで数々の不当労働行為が行なわれて紛争が絶えたことがなく、被告組合員は昭和四五年度年末一時金以降毎年の分を異議をとどめて内金として受領し、いずれも団交拒否および賃金差別として係争中である。原告の大多数の従業員が受領しているのは原告の暴力的労務支配により押えつけられているからである。原告代表者および職制の豊留は被告組合員に対する暴行によりいずれも罰金刑に処せられている。
同4の(一)のうち、原・被告間に昭和四九年一一月一八日、同年一二月一五日、同月二〇日、昭和五〇年二月二〇日、同年三月三日にそれぞれ団体交渉が開かれたことを認める。原告代表者が団体交渉に出席したことをもって誠意があったというが、それは同代表者が労務関係を担当しているからであって、従来と変りはないことである。また、被告側の不誠実な態度についても、被告はかねてから開催の前日までに連絡するよう申入れていたにもかかわらず、原告は昭和四九年一一月一六日、同年一二月三日、同月六日、同月二四日においては当日団体交渉を申入れてきたものであり、被告側としては対応不可能であり、原告の誠意のなさを示している。被告組合員の暴行、脅迫はまったく事実無根である。
同5のうち、誠意をもって団体交渉をするということは労働者の要求に対し回答を提案し、資料を提供することを含むことは認め、その余は否認する。原告の回答につき被告の積極的な努力によって一定の説明があったけれども、各項目の計算方法の説明の域を出ていない。基本について日給でランク分けをするようになったこと、出勤率について有給休暇を欠勤扱いにする根拠、考課や特別についてその基準、採点者、ランク分けの基準に関しそれぞれ具体的説明がなく、原告は一方的な方針を無条件に受諾するよう迫るだけであり、およそ交渉と言えるものではない。また、各支給項目の計算方法などは間接強制決定前に説明のあったものばかりであり、同決定後は従前どおり、考慮の余地がない旨を繰り返すだけである。したがって、このような原告の態度からみて原告が一貫して団体交渉を拒否し続けていることも明らかである。
同6について、原告が夏季一時金について一人当り三〇〇円の上積みを回答したことを認め、その余は否認する。原告は昭和四九年度夏季一時金以外事実上解決していると主張するが、事実を虚構するものであることは前記のとおりである。原告は被告の要求を全部飲まなければ事態が解決しないかのように主張するが、これは誠実に団体交渉を行なうことと事態の解決を混同した議論である。
同7の(一)のうち、被告から昭和四九年一一月七日付書面により同月一八日までに団体交渉を開催するように申入れがあり原告が同月一六日に開催すると回答したこと、原・被告間団体交渉を同月一八日に行なうことに同意したことを認め、その余は否認する。原告は同月一六日に開催することは当日になって被告に連絡してきたものである。同(二)のうち、原告が従来の回答を変更することは事実上困難であり、配分方法については従来説明してきた通りと述べたことを認め、その余は否認する。原告は自己の回答を押しつけることに終始した。同(三)については否認する。同(四)のうち、原・被告間で一二月二日に団体交渉を開くこととしていたが、開催されずに終ったことを認め、その余は否認する。同日原告は被告側の人数を一〇名にしろと要求し、被告は交渉委員以外傍聴にすると言っても聞き入れず、拒否して退室してしまった。被告は六名に人数をしぼって再度開催を申入れたが、原告は交渉する者以外は玄関から出せと要求し、被告組合員は当日雨が降っていたために玄関に待機していたのでなんの妨げにならないと述べたが聞き入れず、原告は打切りを宣告した。同(五)のうち、同日の団体交渉において原告が一人当り三〇〇円の上積みを回答したことを認め、その余は否認する。同(六)は否認する。同日の団体交渉において夏季一時金については一言、二言ふれられただけで、原告の態度は従来の域をまったく出ていない。同(七)のうち、原告が一二月二四日に当日団体交渉を開くことを被告に伝えたこと、同日交渉が開かれなかったことは認め、その余は否認する。同(八)のうち、同日の団体交渉において原告が被告に対し夏季一時金について早く解決してほしいと要求したことを認め、その余は否認する。同(九)は認める。同(一〇)のうち、三月一四日団体交渉が開かれたことを認め、その余は否認する。
原告の態度は間接強制決定前から一歩も出ていないことは注目すべきであり、原告の団交拒否は明らかである。原告は交渉の行き詰まりを主張するが、被告は決して要求に固執しているものではなく、配分方法について質問し、原告の説明を求めているのであって、原告があとは被告の意思決定を待つのみであり、もはや説明の有無の段階ではないという硬直した態度こそ行き詰まりの原因である。原告の不誠実さはきびしく問われなければならない。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因一および二は当事者間に争いがない。
二 次に、請求原因三について判断する。
原告が前記決定において命じられた誠実に団体交渉を行なう義務とは、極めて抽象的な文言であるから、結局、右義務を履行したか否かについては、前記決定後における原・被告間の具体的交渉経緯を総合して判断するほかない。
1 原告と被告は昭和四九年一一月一八日、同年一二月一五日、同月二〇日、昭和五〇年二月二〇日、同年三月三日に団体交渉を行ない、そこでは昭和四九年度夏季一時金について交渉したことは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、その具体的内容は次の通りであることが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
一一月一八日の団体交渉
被告 夏季一時金についてさらに検討されたか。
原告 会社は従来の慣行慣習に基づいて配分したわけで、配分方法については団体交渉の席上でも各項目について説明し裁判所においても説明した。種々検討を加えたが考慮の余地がない。
被告 組合は会社の配分方法を望んでいない。組合は要求四五万、一律九〇パーセント、家族手当などを要求する。いちいち疑問がある。九月一七日の申入れにも書いてあるが一つずつ細部にわたって聞きたい。
原告 そのことについては一つ一つ説明し、皆さんもよく理解している。
被告 会社はいろいろ検討したと言うが、組合の要求を黙殺している。考課について一つ一つ説明して下さい。
原告 すでにしている。
被告 特別について被告組合員だけゼロである。支給基準は?
原告 考課採点などを参考にして三万、二万、一万、ゼロと決めた。考課、売上げとかを総合的に協議してやった。会社としては要求についていろいろ検討を行ない、できることを実施している。説明のときも一項目毎に金額、計算方法までのべ、数字のかけ算まで示している。
被告 残業するしないは労働者の個々の権利にまかされているのに考課の対象にするのはどうしてか。
原告 それだけ会社に貢献している。現場事情をかん案して夜間運行しなければならない。会社としては得意先も大切なので、残業も必要であり、進んで残業をやってもらうことに対して考課の対象にしてさしつかえないと思っている。
一二月一五日の団体交渉
団交の冒頭に原告はこれまでの回答を基本的には変えられないが、一人当り三〇〇円の上積みを提示、被告はこれに答えず他の議題に入り、最後になって
被告 被告組合員は平均五万円余りにしかならないが、会社は考慮の余地がないと言っているが、具体的にどういう検討をされてこういう回答しか出ないのか。
原告 今までの支給実績もあるし、会社の実情その他を考えた上算出してきたことはこれまでの団交の席上でのべてきた。特に今まで一〇円払ってきたのに五円にするというのだったら話は別であるが、被告組合員は生産については常識以上に低いということがあり、それを考えると会社も厳しいわけである。
被告 産業別の大阪の水準なども考慮に入れられないか。
原告 そういうことも考えているが、会社の慣行もあるので。
被告 大阪の水準からみて極端に低い。
原告 結局働がわるいからである。
ここで原告は予定があるからと述べ、打切りとなった。
その後、一二月二〇日、二月二〇日、三月三日に行なわれたが、いずれも他の議題が中心であり、原告が一二月一五日提案受けてもらいたいと述べたのみで、被告からの発言も特になかった。
2 右認定事実によれば、間接強制決定後昭和四九年度夏季一時金について五回にわたり団体交渉がもたれたけれども、実質的な交渉が行なわれたのは二回のみであり、その二回の内容についても同決定前とほとんど変らず、交渉がほとんど深まらなかったことは被告も主張するとおりである。その余の三回においてはむしろ原告の方で積極的に議題として取り上げたものであって、被告は、他の議題が中心であったとはいえ、全くといって関心を示さなかったものである。また、前記決定直後の一一月一八日の団体交渉における原告代表者の説明はやや不親切なところがみられ、被告の質問に対して十分説明義務をつくしたか否か疑問の存するところも見られる。
3 そもそも、労働者に団体交渉権が保障されているのに対応し、使用者が団体交渉応諾義務を負っていることは労働組合法七条二号からも明らかである。右規定からも明らかなように、労働者の正当な団体交渉の要求に対して使用者はこれに応ずる義務であって、もともと受働的なものと言うことができる。団体交渉が十分成果をおさめることができるか否かは使用者の応対もさることながら、団体交渉請求権の主体者の行動が大きく作用することとならざるを得ない。したがって、右主体者が団体交渉の席上で消極的に終始したり、的確な質疑を行なわないときは交渉は成果を上げることはできず、使用者の誠実、不誠実性も明確にならないのである。それゆえ、団体交渉における原告の誠実性は被告の態度と対比して相対的に定めなければならない(双方とも自己の結論に固執している場合を考えると明瞭である。)。被告は、原告が説明をつくしていないと主張し、前記一一月一八日の交渉において原告は被告の質問に十分説明をつくしていない疑いがあることは前記のとおりである。しかし、被告はその後の交渉でこの点を追求していないのみならず、昭和四九年度夏季一時金のために交渉時間をさこうとせずに無関係な態度を取り続け、結局、原・被告双方とも自己の結論に固執したことは前記のとおりである。このような被告の態度をみると、果して被告は原告の説明に不満をもっていたか否か、強い疑問が生じてくるのである。
労働者に団体交渉権が認められるからといって、使用者は労働者の要求を受諾する義務を負わないことも多言を要しない。間接強制はあくまで交渉を実質的に行なうためのものであって、原告に被告の要求を押しつけるものであってはならないのである。一一月一八日の交渉において原告に誠実に交渉に応じておらず、それ以後一日五万円の割合により損害が毎日発生したとするならば、間接強制は本来の目的を逸脱して原告に被告の要求を受諾することを強制することとなって極めて不合理なことと言わなければならない。以上のような被告の行動をかん案すると、原告は前記間接強制決定の主文一項に命じられた義務を履行したものと言わざるを得ず、同決定主文二項の損害は発生していないから、原告が同決定の執行力の排除を求めるのは正当である。
三 よって、原告の被告に対する本訴請求はすべて認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、強制執行停止決定の認可およびその仮執行宣言につき同法五六〇条、五四八条一、二項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 安斎隆)